セキュリティトークンシリーズ第三弾です。本日もインターン生のあさの @nononoasa が書いています。
セキュリティトークンは株や債券などの有価証券とみなされるため、有価証券に対する規制が課されます。本記事では、米国の事例を参考に、有価証券に分類されるトークンの特徴を確認した上で、日本の金融商品取引法を参考に、日本のセキュリティトークンの今後について考えてみます。
セキュリティトークンに対する法規制の確認(米国)
米国での規制に関しては、他の記事に詳しい記事(本文で紹介しています)がありますので簡単に説明します。セキュリティトークンに対する規制は以下の流れで課されていくことになります。
証券法について
セキュリティトークンに関する規制事項を確認する前に、まずは、どのようにトークンが分類されるかを確かめます。米国の証券法によると以下が証券に当たるとされます。
- 株式
- 債券
- 手形(約束手形)
- 投資契約(investment contract)
- 有価証券先物
- 利益分配契約への参加件
セキュリティトークンは将来的に株式や債権とみなされる可能性があるものの、現段階ではそのように明示されていません。トークンが証券とみなされる際は、上の「投資契約(investment contract)」に当たると判断された場合に適用されることが多いようです。
投資契約か否かは以下のHoweyテストによって判断することができます。
この「証券」の定義の一つに「投資契約」(investment contract)が含まれている。「投資契約」とは、Howey事件判決によると、他者の経営努力により、利益を得る合理的な期待をして共同事業に資金を出資することとされており、その判断は、取引の形式ではなく実質で判断するものとされている 引用:ICO に関する SEC の規制対応
下線部の条件をすべて満たす時、トークンはセキュリティトークンであるとされ、有価証券に対する規制が課されます。
howeyテストの詳細に関しては下のレポートに詳しいです。 ICO に関する SEC の規制対応
JOBS法について
Howeyテストの3つの条件でトークンが証券であると判断された場合、セキュリティトークンの売買は投資家を保護するために強く規制されます。ユーティリティトークンのように発行されれば誰でも簡単に購入できるわけではありません。しかし、JOBS法によって一部資金調達が容易になる条項が定められました。以下にSTOに関連すると思われる部分を引用します。
レギュレーションD
最終的な購入者が適格投資家であることの確認を発行体に対して求めることを条件として、私募における一般的勧誘の禁止が撤廃された。これにより、新興企業は、インターネットやメディアなどを利用した私募による資金調達が可能となった。 引用:"米国の IPO に関わる規制見直しの動き
この規定により、発行体は有価証券の購入者が適格投資家であることを確認する必要があるとされています。ネット上で資金調達を依頼する際は、不特定多数の人の資金を募集することはできません。
レギュレーション クラウドファンディング
この法律では、以下の条件を満たす場合、証券をクラウドファンディングで購入することを可能にしています。
- すべての取引がSEC(アメリカ証券取引員会)に登録された仲介業者を通じて行われること
- 12ヶ月間の資金調達額が107万ドル以下であること
- 12ヶ月間に個人投資家がクラウドファンディングを通じて投資できる額に制限を設けること
- SEC、投資家、資金調達仲介業者に情報を開示すること
クラウドファンディングで資金調達を行う場合、投資額と投資期間に制約が課されています。また、セキュリティトークンの取引には仲介業者が必要となるため、取引所の存在が不可欠です。
この条項により、ビットコインなどに見られる、取引所を必要としないP2Pの取引が、セキュリティトークンでは行われないことがわかります。
レギュレーション S
この規制によって、オフショア取引(=米国の企業が海外の投資家に証券を販売する場合など)はSECへの登録手続きをしなくて済むようになりました。
証券法第5条は企業が発行する証券の勧誘、募集、売り付けを米国内で行うときには米証券取引委員会(SEC)に登録届出書の提出を義務付けるなど投資家保護の観点から厳しい規制となっているが、証券の募集および売り付けがオフショア取引で行われ、発行者が米国において証券の需要喚起活動をしないことなどの要件を満たした場合、レギュレーションSが適用され証券の発行企業はSECへの証券の登録手続きをしなくてすむ。引用:https://www.nomura.co.jp/terms/english/other/A02967.html
セキュリティトークンのメリットの一つに、広い範囲で投資家を募集することができることがあります。この規制で定められているように、オフショア取引の登録手続きは簡略化されるため、海外で資金調達を行うことの障壁はセキュリティトークンによってますます低くなる可能性があります。
レギュレーション A+
レギュレーションAは、公募の総額が12ヵ月間に500 万ドル以下の場合において企業のSECへの登録を免除するものであるが、中小企業における少額募集を通じた資金調達を促進するため、レギュレーション A+は、これを 12 ヵ月間に5000万ドル以下へと引き上げた。
この際に、資金調達をする企業は公募開始の21日前には、SECに申請書を提出して許可を獲得する必要があります。
つまり、資金調達をする企業は、SECの申請と申請のための準備が必要になり、投資額に制限が設けられることになります。
各セキュリティトークンプラットフォームの対応
ここでは、日本で触れられることの少ない2つのトークン発行プラットフォームを概観しながら、トークンまたはプラットフォームがどのように規制に対応しているかを確認していきます。
token DPA(Republic)の対応
Repubulicが作成したtoken DPAは企業の債券をtoken形式に変換するために使うことができます。
Republicの説明
Republicというセキュリティトークンプラットフォームは、token DPAというrepublicが作成したトークンで、債券をトークン形式で発行する支援をします。よって企業はRepublic上では、金利と償還期限を定めた上で、債券によって資金を調達することになります。投資家はこのセキュリティトークンを所有することで金利を受け取ることができるほか、元本償還は法定通貨またはトークンで受け取ることができます。そして、債券を発行している以上、企業の倒産時は資産の優先的な請求権を有しています。
今までにあげた規制と、token DPAの関連で重要なポイントは以下になります。
株式による資金調達は様々な規制の対象となり、よって出資できる投資家の数にも制限が出てしまう。
ICOを行うサービスに散見されるSAFTのような形でのトークン発行は投資家の保護がなされてない。
償還期限や金利が定められた債券をトークン化して、ユーティリティトークンよりも安全に、誰でも投資ができる形で資金調達を支援しよう!となります。
token DPAは株式ではなく、債券を発行しているため、資格のない投資家からも融資を受けられます。
そのため、オンライン上で資金調達をする際の条件を定めているレギュレーション Dなどからの規制を受けにくいと思われます。
しかし、token DPAは債券であるため投資家が発行体の支払い能力以上にトークンの現金化を発行体に求めた場合、企業が倒産することになることは、投資家にとってのリスクであることを注意する必要があります。
DS protocol(Securitize)の対応
Securitizeとは?
Securitizeは、証券に関わるすべての要素をデジタル上で行えるようにするための技術プラットフォームを構築しています。 そして、証券の発行から流通までを支援することができるアプリ開発のプラットフォームを作成することを意図しています。
技術プラットフォームは以下の3つの要素からなっています。
規制への対応
DS seriviceが提供しているDS protocolの機能は、KYCに必要な投資家情報の登録など、法令を順した形での、資金調達やトークン取引を行うためのメソッドを多く用意している。これらは、レギュレーションDによって定められた、適格投資家の確認に役立つ機能であると考えられます。
DS protocolはDS appによってPolymathやHarborなどの主要なセキュリティトークンプラットフォームとも互換性を持っているため、セキュリティトークンが広く法令を遵守したものになることに寄与すると考えられる。
securitizeの対応のポイントは以下になります。
法令遵守に必要なKYCなどを規定したプロトコルを用意し、
そのプロトコルが、他プラットフォームやセキュリティトークンに関連したアプリへの応用を通じて、セキュリティトークンエコシステムの法律遵守に貢献しよう!
日本での規制の方向性について
結論から言いますと、まだセキュリティトークンについて解説した記事等は8月13日現在、見当たりませんでした。
上の[図1]で述べた規制の方向性を日本に適用して考えた場合どのようになるのか考えてみます。 (※筆者は法律の専門家ではないため、内容の適切さについて一切責任を負いません)
まずは、セキュリティトークンが有価証券か否かの判断をいかにするかということになりますが、有価証券を判断するためのHoweyTestのような基準は、日本には存在していません。
その代わり、金商法2条1項、2項に有価証券となるものが具体的に列挙されています。 以下のサイトで、有価証券とされるものを確認できます。
2条1項に有価証券に当てはまるものが指摘されています。 国債証券、地方債証券、社債券、株券または新株予約券証券など馴染みのある有価証券だけでなく、貸付信託の受益証券といった馴染みがあまりないものまで含めて詳細に記載されていることが確認できると思います。
また、2条2項では、補足で有価証券とみなすべきとされるものが列挙されています。ここには信託の受益権、合名会社若しくは合資会社の社員権(政令で定めるものに限る。)又は合同会社の社員権など普段我々が証券とみなしにくいもが多くあげられています。
さて、この法律によると、セキュリティトークン形式に変換していくことが期待されている社債(社債券)や株式(株券又は新株予約権証券)などが、有価証券に当てはまるものとしてあげられることがまずは確認できます。しかし、この中に、セキュリティトークンがないことを鑑みると、この条項の中に追加されるか否かが有価証券に課される既存の規制が適用されるかを判断するポイントになると思われます。
米国では、ネット上での私募や公募に関する例外事項等の規定がありますが、こちらも日本では見つかりませんでした。 法的な整備が今後一層進むと考えられるでしょう。
まとめ
今回は、セキュリティトークンの今後について考えていく上で、米国の法律規制動向を最初に簡単に触れ、日本の規制動向について考察しようと考えこの記事を書きました。 米国では、規制の方向性がすでにある程度明確となっており、セキュリティトークンプラットフォームの動きもかなり具体性を持って把握することができます。一方で、日本では規制についての考えが明確にまとまっていないからか、セキュリティトークンプラットフォームサービスを提供する方針を示している企業もごく少数に限られています。 今後、規制の動きにアップデートがあった場合、新たに記事をアップロードしていく予定です。
参照
8 Important Things To Know About Security Tokens / Token Regulation
What Is A Security Token Offering (STO)? – PolymathNetwork
プログラム可能な規制に関する概要:A Different Way to Think About Security Tokens: Programmable Regulation
第一弾
第二弾